【感想文】わたしたち地球クラブ

作:キャリー・ファイヤストーン 訳:服部理佳 2023年12月20日

わたしたち地球クラブ | 書籍 | 小学館
フィッシャー中学で新設された特別授業「地球クラス」。この授業ではSDGsのテーマのひとつである「気候変動」に注目し、これからも地球に住み続けるための方法を学びま…

コネチカット州ハートフォードと近郊の町ハニーヒル(おそらくこちらは架空)を舞台に、試験的に設置された授業「地球クラス」を履修することになった9人の中学生が、挑戦や失敗を乗り越えながら、気候変動に立ち向かう。

読む前の印象は、日本語版のポップなイラストや「わたしたち地球クラブ」というタイトルから、いわゆる部活ものの気候変動バージョンのような感じだったが、読んでみると、環境問題と人種差別の関係のような問題もしっかり解説していて、こんな児童文学があるのか、と驚かされた。僕が読んできた本が偏っていたのだと思うが、社会問題を正面から描く児童文学は、過去の事象を歴史的な事実として扱うものを除き、ほとんどなかったからだ。

中学生の一人ショーン・ヒルは、黒人が多く暮らすハートフォードから、ハニーヒルの中学校に通う。白人が多いハニーヒルでは、同じく黒人の生徒であるイライジャと間違えられたり、ハニーヒルの生徒から遊びに誘われなかったり。この町から「のけもの」にされるような感覚を覚え、半ばあきらめている。
ハートフォードには、空気を汚すゴミの焼却炉が存在していた。物語の中では、ショーンの両親が、焼却炉を撤去するための市民運動を行い、最終的には撤去されることになる。しかし、そのようなものは、白人の多い町には設置されないのだ。
「安全」とか言われている原発が決して大都市には置かれず、過疎の進む地域に建設されるのと似た構図だ。

また、法律やルールを作るときに、「誰かを排除していないか」という視点を持たなければ、(たとえ意図していなかったとしても)制度による差別が続くということも、やさしく解説される。

そして、主人公のメアリーは、正義感が強い中学生。
本作で描かれる人種差別に対して、憤る気持ちを「わたしの中のスズメバチ」という言葉で表現する。
残念なことに、差別をする人を強い言葉で非難しても、その人が改めてくれることはめったにない。物語の中で、メアリーは、そのことを何度も痛切に感じることになる。
そして、最終的に、彼女は、立場の異なる人を「人種差別主義者」と強い言葉で非難するのではなく、平和に対話しようと試みるようになる。
僕の周りには、繰り返される人権侵害に声を上げる人が多い。僕自身、マイノリティであることから、何度も踏み潰されてきた。怒りや悲しみを覚えることは少なくなかった。一方で、より多くの人と、人権を守ることを語り合うためには、怒りや悲しみは持ちつつ、メアリーが最後に書いた手紙のような姿勢も決して馬鹿にはならないのだと思う。
あとがきでは、作者のキャリー・ファイヤストーンさんご自身が社会運動に関わってきた経歴を持つことが紹介される。その経験の中から痛切に感じたことの1つなのだろう。

2025年の夏は2023年や2024年と同等かそれ以上に暑い。電気代を気にしつつも、熱中症になっては元も子もないと、やむを得ずエアコンを付けている。
余り時間は無さそうだ。

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