【感想文】疑似科学と科学の哲学

作:伊勢田哲治 2003年1月10日

疑似科学と科学の哲学 « 名古屋大学出版会

イメージ曲:「舵をとれ(平沢進)」

本書は、科学哲学を専門にされている伊勢田哲治さんの「科学哲学日本語ブックガイド」にて「入門書」として紹介されている。ページのデザインはいかにも”昔風”だが、最終更新日を見れば、盛んに更新されているようなので、科学哲学に興味を持った人はコマメにチェックしてみよう。

タイトルだけを見ると、「時間は逆戻りするのか」のような応用的な書(色物?)と思いきや、読めば中々濃い科学哲学の入門書である。反証主義、パラダイム、実在論、相対主義など、科学哲学に欠かせない概念を学ぶことができる。

そして、これらの概念を用いて、創造科学、占星術、代替医療、超心理学(超能力の研究)といった「疑似科学」とされるものが本当に疑似科学なのかを、考えてみよう、というのが本書の目的である。(これは「線引き問題」というらしい)

本書は2002年までに執筆、2003年に初版が発行された。このころは、地下鉄サリン事件の記憶がまだ色濃く、その影響は「あとがき」からもよくわかる。

地下鉄サリン事件は、1995年、新興宗教であるオウム真理教のメンバーによって引き起こされた。東京の地下鉄で、猛毒のサリンがまかれ、多くの死傷者を出した。

オウム真理教は、数々の事件を起こす前から、テレビには出ていたが、(本書によると)事件後、幹部に所謂「高学歴・理系」な人が多いことが判明。

著者の伊勢田さんの周りでは、「大学の理系教育はどーなっているんだ!」という意見が多く寄せられたそうだ。

伊勢田さんは、彼らがオウム真理教に入ったのはあまりにも「疑う」ことを知らなかったのではないか、そして、適度に疑う技術を身に着ける場は哲学の授業ではないか、と述べている。そして、最後に本書を「科学哲学者としての地下鉄サリン事件への答え」として、締めくくっている。

理系の学部では、教養で哲学(の入門)を学ぶことはあっても、科学哲学について学ぶ機会はあまり多くない。しかしながら、地下鉄サリン事件以後も、環境問題、2011年の福島第一原発事故など、科学にまつわる種々の問題が立ち上がっている現状を見れば、科学の中身だけでなく、「科学はどのようなものなのか」といった科学そのものに関する考えを学ぶ機会があっても良いのではないか、と思う。

評者としてはこちらの「学校に入り込むニセ科学」と合わせて読むことをおすすめしたい

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