作:セアラ・ドライ 訳:東郷えりか 2020年08月27日
イメージ曲:「Come Monday(Jimmy Buffet)」
2024年現在、所謂地球温暖化などの気候変動は、小学校でも当たり前のように扱われている。気候変動の被害は、立場の弱い人々ほど大きくなることから、気候変動は人権問題とも結びつけられており、世界各国において、「ちゃんと対応しろ」と主張する社会運動も盛んだ。
それもそのはず、気候変動の警告は20世紀からずっとあったのにも拘らず、皆経済成長を優先して目を背けてきたからである。今でも、気候変動に対して、積極的な姿勢を取らない政治家が一定の支持を得ている。
地球の気候に関する理解は、シャーロックホームズが活躍した19世紀から様変わりした。
我々が当たり前のように考えている地学の常識は、19世紀から21世紀にかけて、どんどん確立していったものなのである。(それこそ、1950年代の「沈黙の春」では、冒頭で陸の橋がどうのこうのと述べられている。)
本作は、現在の気候科学が形作られていく(1つの)過程を、6人の科学者の姿とともに、描き出す。19世紀の科学者、「ティンダル効果」のジョン・ティンダルに始まり、最終章では、「ダンスガード・オシュガーサイクル」のウィリー・ダンスガードを扱う。
その中で、「変化せず、穏やかな地球」から、「変動の激しい地球」という我々の地球に対するイメージの変化も知ることができるのではないだろうか。
本作によると、気候科学は、様々な学問の寄せ集めのような性質を持ち、それ自体が学際的だという。そして、気候科学を扱う上での難しさも度々述べられる。地球の気候のシステムは、とても大きく、複雑なのである。
評者は海洋学にも興味を持っているが、かつて、地球温暖化や、海洋熱波について興味を持ち、調べてみようとしたところ、その問題の複雑さに圧倒されたことがある。
物理学や数学のように、問題をスッパリと語ることはとても難しいのだ。
評者の素人考えだが、この複雑さが、気候変動の問題について、様々な意見を生み出しているのだろう。ちょうど、他の政治問題について、色々な意見があるのと同じような理屈である。
翻訳の問題か、文章の構成(順番)の問題なのか、Aさんの話をしていると思ったら、いきなりBさんの話になり、またAさんの話になる…といった感じで話が進むので、人によっては読みにくいと思うかもしれない。(カタカナの名前がたくさん出てくるのもある)
とはいえ、気候科学の複雑さ、難しさを、歴史の観点から実感する、という意味では良書だと思う。気候科学をある程度知っている人にお勧め。