僕はもともと、地学を中心とした、科学全般に興味を持ってきた。「科学」には人文科学や社会科学も含まれる。
最初はTwitter(X)で色々と情報を集めていた。当然のことながら、Twitterにも「科学界隈」があり、科学に興味のあるユーザーはもちろん、実際に大学などで専門的に学ぶ学生さんや、研究者や教員がその界隈をなしている。彼らの投稿には、日常のアレコレや、研究界隈についての不満もあるが、研究についての面白い情報もあり、僕はよくそれらを眺めていたものである。
転機が訪れたのは、2022年の終わり。イーロン・マスクさんのTwitter社買収である。
言論の自由を大事にする彼の方針によって、Twitterの差別的投稿がより増えるのではないか、という懸念が見られた。僕自身、元々、Twitterには言いようのない居心地の悪さを感じていた。
そこで、思い切って、別の場所を探してみようかと、色々な代替を探して彷徨ううちに、MastodonやMisskeyを「発見」し、最終的には自分でサーバーを建ててしまった。最初はお一人様サーバーを建てたが、2023年6月からは、科学をテーマにしたActivityPubサーバー「Aurora Planet」、2024年2月からは姉妹サーバーの「Ocean Planet」を小規模ながら、運営している。
詳しい経緯:
さて、大統領選もそう遠くない2024年9月、トランプ前大統領の暗殺未遂事件があった。フロリダ州でゴルフを楽しんでいたときに、ライフルで狙おうとした人が居たという。これに対して、イーロン・マスクさんが、不穏な発言をした。上記のニュース記事の日本語訳を引用すると、「そして、誰もバイデンやハリスを暗殺しようとさえしない」。流石に批判が殺到し、現在では削除されている。
彼の発言は前々から不穏なところもあったが、僕の視点からは、この発言は明らかに一線を超えているように感じられた。これは、政治的にどのように考えているか、という話以前の問題で、暗殺を煽動していると捉える人が居てもおかしくないのである。
しかしながら、僕の観測範囲では、インフルエンサーを含む科学界隈の人々がThreads、Bluesky、その他Fediverseのサーバーに移行をする様子はほとんど見られない。
そもそも、代替SNSにいる科学に関係するユーザーはTwitterに比べてかなり少ない。Blueskyを利用するユーザーは比較的ぽつぽつと現れているものの、数はまだ少ない感じ。Fediverseや、ActivityPubに対応しているThreadsはより少ない感覚がある。
なぜこのような感じになっているのか。本当のところは、御本人に聞いてみないとわからないが、いくつか仮説を立ててみたいと思う。
念の為述べておくと、僕は必ずしもTwitter(X)を利用する科学界隈のユーザーを全否定するつもりはない。何らかの理由で、Twitter(X)を使わざるを得ないユーザーも居るだろうし、僕が運営するAurora Planet自身、宣伝用のTwitterアカウントを開設している。そのことを踏まえていただきたい。
なぜ科学界隈のユーザーの活動はTwitterから代替SNSに広がらないのか?(勝手に予想)
イーロン・マスクさんの考えと相性が良い?
イーロン・マスクさんは言論の自由を大切にしている。
特に、自然科学の界隈は、言論の自由の考えと相性が良い可能性がある。
科学では、公明正大な議論が必要であり、目上・目下によらず、自由に意見を言えることが重視されていることも多い。
一方で、「差別は許されない」といった考えには、「言論統制」などと反発感を覚えることもある。
例えば、「男性が女性よりも物理の能力に優れている」とデータ付き(!?)で講演をした研究者がCERNを出禁になった出来事について、「そんなことも議論できないのか」と反感を抱いたユーザーが居たといった事例である。
投稿の元になったニュースはこれだと考えられる。
僕としては、もしこのデータが正しかったとしても、わかりやすい結論に飛びつく前に、このようになる理由をじっくり考えるべきだと考えている。本当に男性のほうが女性よりも物理の能力が優れているのか?他に要因があるのではないか?など。
似たような事例は色々とあるが、科学界隈(観測範囲)では、差別がないこと、権利が守られることよりも、言論の自由の方を大切にしているのではないか、と僕は考えている。
(インフルエンサーの人の場合) 他のSNSでは収益化しにくい?
インフルエンサーの中には、X proなどによって、収益化をしているユーザーも居る。インプレッションによって収益を得られる仕組みがあるのだ。
これに対して、Mastodonにはそうした機能はなく、Misskeyには広告機能があるものの、Twitterほど規模は大きくない。
Blueskyは広告によらない収益化を目指しているようである。Threadsについては収益プログラムをテスト中?とのこと。
今のところ、一番手軽に収益化ができるのはX(Twitter)であり、インフルエンサーのユーザーは他SNSに積極的に動きにくいのではないだろうか、と予想してみる。
上記に関連して、友達や仲間が動かないので自分も動かない
科学界隈のユーザー同士でフォロー・フォロワーを含む交流があり、ある程度居心地が良いと、わざわざ新しい関係を作りに他SNSに行こうと思わないのではないか、と考えられる。
この場合、逆に、インフルエンサーの方や、ネットワークが広い人が思い切って移行したり、アカウントを増やしたりすると、代替SNSにも一気にアカウントが作られそうな気もする。
科学界隈のユーザーに分散型SNS(Mastodon,Misskey他)およびActivityPubに対応しそうなThreadsをおすすめする2つの理由
僕は、いくつかの理由から、科学界隈のユーザーの方にこそ、Mastodonを始めとする分散型SNS(ここでは特にActivityPubに対応したものを考えよう)を使ってほしいと考えている。
また、Threadsも、プライバシーが気にならないユーザーであればおすすめだ。公式アカウントが増えつつある上に、まだまだ発展途上ではあるが、ActivityPubに対応しつつある。後々収益化もできるようになるとのことなので、収益を重視したいインフルエンサーの方にはThreadsという選択肢があるかもしれない。(Fediverseに投稿を流すには設定が必要なので、お忘れなく!)
なお、英語圏ではMastodonを使う研究者もそれなりにいるらしく、検索しても科学系Mastodonサーバーはたくさん見られる。
Mastodon等の解説: 分散型SNS「マストドン(Mastodon)」について改めて知ってもらうための話(れるらばさん)
ThreadsとFediverseの解説: Threads、Fediverse(分散SNS)から届く返信が表示可能に
色々なサーバーが”たくさん”ある
分散型SNSといっても、色々なプロトコルがある。BlueskyはATprotocolに対応している一方、MastodonやMisskeyなどはActivityPubに対応している。
ここでは、特にActivityPubに注目しよう。(Blueskyは、bsky.social一強の状態に近いので注意されたい)
ActivityPubに対応しているMastodonやMisskey他のサーバー同士は基本的にお互いに通信ができ、フォロー、投稿の拡散、反応(いいね)、返信、DMなどを送り合うことができる。それぞれのサーバーごとに、別々の管理人・利用規約があり、言論の自由を重視するサーバーもあれば、反差別を重視するサーバーもある。
僕が訴えたいのは、「色々なサーバーがある」ということである。
Twitter(X)のように、1つのサーバーのみで完結する集中型SNSは、運営の効率は良い。しかしながら、もしそこの運営方針が気に入らない場合、あなたは、そこで培った人間関係を犠牲にするか、運営方針をガマンして使い続けるかの2択を迫られる。
一方、分散型SNSであれば、あなたのいるサーバーが気に入らなくても、同じプロトコルに対応している別のサーバーにお引越しすれば、人間関係を保つこともできるし、運営方針の気に入らない場所から抜け出すことができるのである。
また、僕個人の考えとして、複数のサーバーがゆるやかにつながってやりとりできる仕組みは、非効率ではあるが、色々な考えを持つ人々が丁度よい距離感で関われる仕組みだと思っている。
好きなサードパーティクライアントを使うことができる
2023年に、Twitter(X)がサードパーティクライアントを締め出したことを覚えている方も多いだろう。僕はTweetenやFeatherなどのクライアントを使ってきたが、すべて使えなくなってしまった。Twitter(X)公式アプリは、広告があるのはまだマシな点で、「おすすめ」タブには差別的な情報、謎の陰謀論などあまりにあんまりな情報が流れてきてしまう。
サードパーティクライアントを愛用していたTwitter(X)ユーザーの中には、そのままMastodonなどに移行したユーザーも居る。FeatherはMastodon用クライアントとして生まれ変わった。
ほとんどのSNSソフトウェアでは、Twitter(X)のような制限なく、サードパーティクライアントを作ることができる。
Mastodonの元々のUIが気に入らなければ、Elk(Webクライアント)、Ice Cubes、Featherなどなどを使えば良い。
Misskeyは標準のクライアントが優秀なのもあり、Mastodonに比べるとサードパーティクライアントは少ないが、Miria、Aria、MilkTea、MissCatなどがある。(参考: https://wiki.misskey.io/ja/software/clients)
プロトコルは異なるが、Blueskyも色々なサードパーティクライアントがある。
自分の好みのクライアントが使えるという点も、あなたに分散型SNSをおすすめする理由である。
科学界隈に懸念していること
ここまでは、別に科学界隈でなくても、分散型SNSをおすすめする理由になりそうだ。
僕が特に科学界隈の方に分散型SNSをおすすめしているのは、以下の懸念があるからだ。
僕の知る限り、科学界隈には差別の問題がある。界隈の一部ではある(と信じたい)が、界隈では、性差別を始めとする様々な差別的投稿が見られる。
大学入試の女子枠に対する批判でも、真っ当な批判を超えて、ただの女性差別になってしまっている投稿もいくつか見かける。(確かに、女子枠は現役世代に不利益を押し付けることになるので、両手を上げて賛美できるものではないのだが)
その中では、似たような属性の仲間はよく見られるが、そうでない属性を持つ人々は文字通り「透明化」されてしまう。少なくとも僕にはそう見られる。
このような状況は、科学の発展にとっても、様々な理由から不健全である。多様な人々が追い出されずに存在できることで、初めて集団はより良くなるのである。
先述した内容を発展させた形ではあるが、僕は、Fediverseに科学界隈が少しずつ根付くことで、科学界隈が、より多様な人々の集まりになり、最終的にはもっとインクルーシブな形での発展をすることができるのではないか、と信じている。
それが、あなたにFediverseをおすすめする根本的な理由である。