作:戸谷洋志 2023年04月10日
イメージ曲:「ちょうどいい(火野正平)」
1990年代、日本ではバブル経済が崩壊し、それから30年以上経った今でも、景気は停滞気味である。その中で「学問」や「教養」に対する考えも大きく変わりつつあり、その代表格は国立大学の法人化だろう。
そして、低迷する日本の科学力を立て直すべく、いわゆる「理系」の学問が優遇される一方、「文系」、特に人文学系は役に立たないものとして理解されているような具合だ。タイトルにもなっている「哲学」は、その最たるもので、物好きや真剣に人生に悩んだ人などの例外を除いて、「何の役に立つの?」とあっさり言われてしまうのがオチである。
本書は創元社が2023年4月に創刊した人文書シリーズである「あいだで考える」シリーズの第2作である。SNSにまつわるあれこれをもとに、著者である戸谷さんが(西洋)哲学の世界へやさしく誘ってくれる。
SNSは2010年代から急速に普及し、若い世代であれば大抵の人が使っている。SNSはもはや我々にとって一つの「世界」である。SNSについて考えることは、我々の住む世界を考え、それは、結局、自分自身について考えることになるのだと、筆者の戸谷さんは述べる。本書では1~5章にわたり、「SNSに疲れてしまうのはなぜ?」「SNSにはどんな時間が流れているの?」といった身近な疑問について、主に西洋哲学の考え方を参考にしながら、考えていく。これらの問いは、単に、哲学の文献を当たるだけでなく、哲学対話の問いとして上げてみるのも悪くないだろう。SNSにハマっている方々の間であれば間違いなく盛り上がるはず。
中高生(早ければ小学校高学年くらいでも大丈夫だろう)や本をあまり読まない人にとっても親しみやすいデザインであり、文章も難解でなくわかりやすい。それでありながら、本書は、読者を、いわゆる「ファスト教養」にとらわれない無限の冒険へと連れて行ってくれることだろう。