作:レジー 2022年9月16日
イメージ曲「HUMAN-LE(核P-MODEL)」
ひろゆき、中田敦彦、カズレーザー、DaiGo、前澤友作、堀江貴文。
この面々は、2021年に発表された「ビジネス・教養系YouTuber影響力トレンドランキング」の上位陣だという。
この名前を見て、納得する人と、なんとなく不安になる人がいるだろう。
本書は、そのどちらの人にも読んでほしい本である。
著者のレジーさんもおっしゃるとおり、”教養”の定義はあいまいである。
評者である僕にとっての教養とは、「なんであれ、自分をより深く豊かにするためのもの」であるが、どうやら、それとは全く違う考えの人もいるらしい。
それが、「教養=ビジネスやお金儲けの役に立つもの」という考えであり、タイトルにもなっている「ファスト教養」である。
詳しいことは置いといて、「ファスト教養」という考え方においては、「ビジネスに役立つもの、例えば、実学や日本文化・歴史を、好きか嫌いかは置いといて、できるだけ短時間でざっくり把握する」というのが主流だという。
こうした内容を見て、評者は既視感を覚えた。というのも、これは「映画を早送りで見る人たち」において、「興味はないが、友達との会話についていくために、話題の作品を早送りで見る」というのと通じるところがあるからだ。(実際、本書では「映画を早送りで見る人たち」を取り上げ、「ファスト教養」の考え方がエンターテインメント作品の需要にまで及んでいることを述べている。)
また、本書では、「ファスト教養」の考え方が生まれた背景を、自己責任など新自由主義の考えが広まり、堀江貴文が最初に活躍した2004年まで遡り、自己啓発本の歴史を追って考察している。
ここからは、「ぴえん系女子」の「推し文化(推しに沢山お金を貢ぐのが偉い)」と、「税金を納めていれば権利が認められる」という考え方が何となく重なってくる。
ファスト教養が広まる現状を解説した第1章~第5章までを読むと、何とも息苦しい考え方でもあるなあ、と不安になってくる。第6章では、そんな現状に対する筆者なりの対処法が提示される。
「ファスト教養」を全否定するでもなく、むしろうまく活用しつつも、決して鵜呑みにせず、自分の”好き”を大切にし、ノイズや”無駄”も必要以上に排除しないという方法は、「ファスト教養」を肯定しがちなビジネスの世界と、「ファスト教養」を否定しがちなカルチャーの世界と両方で活躍するレジーさんらしい対処法であるといえるだろう。(もっとも、この方法は、ビジネスパーソンはもちろん、時間のある学生にとっても難しそうである。)
YouTubeチャンネル「京都大学人と社会の未来研究院」では、「立ち止まって、考える」というオンライン講義シリーズを展開している。
多くの人にとって、”立ち止まって”考えるには、あまりに時間が足りないかもしれないが、何も考えなしに「ファスト教養」を鵜呑みにせず、”走りながら”でも、追い求めるものを見直したいところである。
余談だが、本書では、ネットメディアのNewspicksが、「現在のファスト教養の牙城となっている」と紹介されている。一方、表紙の帯を見ると、「各メディアで話題沸騰!」とあり、その下にはいくつかの新聞や週刊誌の名前が載っていて、その中にNewspicksも載っている。
「ファスト教養の牙城」とされるメディアが、ファスト教養に批判的な本書を取り上げるのは何とも興味深いと言える。
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