【感想文】檸檬(梶井基次郎)

作:梶井基次郎 2013年6月21日(創作集『檸檬』は1931年発表)

イメージ曲「Love Somebody(織田裕二)」

1901年、大阪に生まれ、1932年、無名のうちに結核でこの世を去った梶井基次郎の作品集。

作品解説によると、彼が創作活動をしていたのは1924年から1931年のわずか7年間であり、残された作品は、作品20篇と遺稿26篇だという。

彼の作品は、ほとんどが短編で、少なくとも「檸檬」には中編~長編小説は無い。

また、各作品の主人公は、解説でも指摘されているように、ほとんどが、結核(肺の病気)を持ち、それに伴い精神的にも問題を抱えていて、学校に行けていない青年である。これは、作者本人の状態がよく反映されているのである。そして、基本的には、その「自分」の視点から、様々なことが語られる。

一見、「フツーの私小説」ともとれるようなこれらの作品群を際立たせているのは、やはり文章の美しさだろう。現代に生きている我々から見ると、見慣れない単語が所狭しと並び、辞書を引かなければわかりにくい部分も多々あるのだが、それでも、その良さが死ぬことはない。作品で描かれる世界は、とても狭い。一方で、退廃的ながらも、爽やかな美しさがある。

僕がこの作品、正確には冒頭の「檸檬」に出会ったのは、学生のときである。国語の問題で、この作品が使われたのだ。問題自体はかなり難しく、僕は思うような点数を取ることはできなかったが、「美しい」と何故か感動したのを覚えている。内容としては、「病気を抱えてニート同然の主人公が果物屋さんで見つけたレモンを、丸善に置いていく話」なのだが、それをここまで膨らませるのは流石である。大正時代末期~昭和初期から今に至るまで彼の作品が語り継がれているだけのことはある。

ただ、解説によると、梶井基次郎は、この「病んでる主人公」系の作品を続けようとは考えていなかったらしい。社会主義に影響を受けつつも、自分の「神経衰弱」的な芸術を超え、「『生活へ』の芸術」を作り出すために、徹底的に暗さを突き詰めていったという。その過程にあった作品が「桜の樹の下には」や「闇の絵巻」であり、最終的には最後の作品「のんきな患者」に至ったという。

もし、彼が早く亡くならなければ、もう少し違う梶井基次郎を知ることができただろう。

終戦や高度経済成長、(長生きできれば)バブル期を、梶井基次郎はどんな視点で見ているだろうか。ぜひとも本人に聞いてみたいところだ。

ちなみに、いくつかの作品によく出てくる温泉地は、川端康成も滞在した「伊豆湯ケ島温泉」だという。いつか行ってみたい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました